🎧 対談で聴く(二人が語り合う、この記事の感想・解説)
この音声は、本文の内容をもとにGoogle NotebookLM(Gemini)が生成したAI音声解説です。二人のキャスターが感想や解説を交えて語り合う対談形式の音声で、本文をそのまま読み上げるものではありません。
我が家には、8年前に引っ越してきたときから、ずっと開かない窓がありました。うちの庭に面した、二重窓(Double Glazed Window)の一枚です。ちなみに英国では、この「ダブル・グレイズ」と呼ばれる二重窓が、住宅のほぼ標準仕様になっています。2枚のガラスの間に空気の層を挟むことで、家の中の暖かさを逃さず、外の物音も驚くほど遮ってくれる――日本の住宅ではあまり馴染みのない窓ですが、寒くて古い建物の多い英国では、暮らしの快適さを支える、なくてはならない存在なのです。押しても引いても、うんともすんとも言わない。もう一枚の窓も、ハンドルがぐらついて、開け閉めのたびに小さなストレスを感じていました。今回は、その2枚の窓を英国の専門業者さんに直してもらった話と、そこから見えてきた「日本と英国、家の修理をめぐる文化の違い」、そして、DIYや家の修理が老後の暮らしにもたらしてくれるものについて、じっくり書いてみたいと思います。
以前、玄関先の物置Shedを塗り直した記事(古びたShedを蘇らせる)でも触れましたが、英国の住宅は古いものが多く、日々何かしらのメンテナンスとの付き合いが続きます。今回はその延長線上にある、窓の修理の記録です。

日本と英国、「家が壊れたらどうするか」問題
英国に住んでいて面白いなと思うのは、家のちょっとした不具合を「まず自分でなんとかしてみよう」という空気が、社会全体に根強くあることです。ホームセンター(B&Q や Wickes)はいつも週末には家族連れでにぎわっていますし、YouTubeで「How to fix a stuck window」と検索すれば、無数の英国人DIYerが嬉々として工具を振り回す動画が出てきます。古い家が多いイギリスでは、家を「メンテナンスし続けるもの」として捉える文化が、当たり前のように根付いているのだと思います。
一方、日本での暮らしを振り返ると、賃貸住宅が多いこと、そして「新しいものに買い替える」「専門業者にすぐ頼む」という価値観が、良くも悪くもDIY文化を後回しにしてきたように感じます。もちろん、日本にも宮大工に代表されるような、驚くほど精緻な木工技術の伝統があります。ただ、それは「特別な職人の仕事」であって、「普通の人が休日にやること」ではない、という線引きが、どこかにあるように思うのです。
今回、私は「自分では直せない」と早々に判断し、プロの手を借りることにしました。DIYではなく、あえて専門家に任せるという選択も、また一つの知恵だと思っています。
8年目の「開かずの窓」、ついに動く
依頼したのは、地元の窓修理専門会社「WindowMend Services」さん。担当してくれたのは、Jayさんという、インド系British、まだ30代とお見受けする青年でした。自分の会社を立ち上げ、家族を大切にしながら奮闘している様子が、初対面から伝わってきて、とても好感が持てました。窓のドアの構造についての知識と経験も、素晴らしいものでした。
約束の朝8時30分ぴったりに、Jayさんはやってきました。まず2枚の二重窓の状態を確認し、1つはハンドルの不具合、もう1つは完全に開閉できない状態であることを見極めます。私が半信半疑で「Can you repair it?」と尋ねると、迷いのない自信に満ちた声で「もちろんです」という答え。その言葉だけで、なんだか肩の荷が下りたような気がしました。

作業は、見ていてほれぼれするほど手際の良いものでした。あっという間に二重窓を枠から取り外していく様子は、私にとって初めて目にする光景。8年間ずっと開かなかった窓は、中で何かがスタックしているようだということで、Jayさんは1時間ほど根気強く格闘してくれました。そして、ついに――窓が、開いたのです。妻と二人、思わず顔を見合わせて大喜びしてしまいました。8年間、動かなかったものが動く。それだけのことが、こんなにも嬉しいのかと、自分でも驚くほどでした。
その後、ロック機構とハンドルを新しいものに交換し、もう1枚の窓も同じように部品を取り替えて作業終了。かかった時間は、しめて30分ほど。値段も、想像していたよりずっと良心的なものでした。
作業後、私はGoogleに次のようなレビューを残しました。
「Jay is a professional specialist for window problems. He is honest and knows what he is doing. Our two window doors had problems for a long time. I was afraid it might need a costly replacement. We are very happy with his job. Strongly recommend contacting him with window problems.」
Jayさんは、いつか家族で日本を旅行してみたいとも話してくれました。国も文化も違う二人が、壊れた窓をきっかけに、こうして少し心を通わせる。それもまた、家の修理がくれる小さな贈り物だなと感じます。
DIY、家の修理が教えてくれる、老後を豊かにする3つのこと
今回の窓修理を通じて、あらためて感じたことがあります。DIYや家の修理というのは、単に「壊れたものを直す」以上の意味を、私たちの暮らしに与えてくれるのではないか、ということです。ここでは、3つの視点からお話ししてみたいと思います。
1. 心と体を「整える」時間としてのDIY・家の修理
禅の修行には、「作務(さむ)」という言葉があります。庭を掃く、床を拭く、薪を割る――そうした地味な身体労働もまた、座禅と並ぶ大切な修行のひとつだとされてきました。頭で考えすぎず、手と体を動かすことに集中する時間は、心を静め、今この瞬間に自分を連れ戻してくれます。
DIYや家の修理も、まさにこの「作務」に似ています。ネジを締める、板を削る、壊れた場所を観察する。そこには、複雑なことを一旦脇に置いて、目の前の一点に集中する時間が生まれます。年齢を重ねると、集中力や記憶力の衰えを感じることも増えてきますが、こうした「手を動かす瞑想」は、頭と体の両方を、ゆっくりと、しかし確実に整えてくれるように思うのです。実際、Jayさんの作業を見ながら、私自身も久しぶりに、無心に何かに見入る時間を過ごすことができました。
2. お金以上のもの ― 「金継ぎ」に見る、直すことの意味
年金生活者にとって、家の修理費用は、決して軽い出費ではありません。今回のような専門業者への依頼はもちろん、DIYの道具や材料も、積み重なれば馬鹿にならない金額になります。「新しいものに買い替えたほうが安いのでは」と、頭をよぎることも正直にあります。
それでも私たちが、お金をかけてでも「直す」ことを選ぶのはなぜなのでしょうか。ここで思い出すのが、日本の「金継ぎ」の伝統です。割れた器を、金の粉を混ぜた漆で継ぎ直し、あえてその傷跡を美しく際立たせる。金継ぎされた器は、無傷だった頃よりも、むしろ価値を増すことがあります。それは、そこに「時間」と「物語」と「手間」が刻まれているからです。

割れた跡をあえて美しく見せる、日本の「直す」文化を象徴する金継ぎの器です(写真: Riho Kitagawa / Unsplash)。
8年間開かなかった窓が、ついに開いた。この経験は、単に「窓が直った」という事実以上のものを、我が家に残してくれました。それは、この家で過ごしてきた歳月そのものへの、小さな敬意のようなものです。お金では買えない満足感、そして「この家を、これからも大切にしていこう」という気持ち。DIYや家の修理は、金銭的な負担と引き換えに、そうした、数字には表れない豊かさを、私たちの老後に手渡してくれているのだと思います。
3. 新しい出会いが、老後の暮らしに与えてくれる彩り
日本の農村には、かつて「結(ゆい)」という仕組みがありました。屋根の葺き替えや田植えなど、一軒の家だけでは手に負えない仕事を、近隣の人々が互いに労力を出し合って助け合う。そこには、単なる労働の交換以上の、人と人とのつながりが生まれていました。
現代の私たちにとって、家の修理のためにやってくる職人さんとの出会いは、この「結」に少し似た役割を果たしてくれているのかもしれません。Jayさんのように、見知らぬ土地からやってきた、見知らぬ人と、数時間、同じ課題に向き合う。その人の仕事への誇り、家族への愛情、将来への夢を垣間見る。そうしたやりとりの一つひとつが、日々の暮らしに小さな彩りを添えてくれます。
そして、DIYや家の修理を通じて、私たちは家そのものとの関係も、少しずつ深めているように思います。壊れた場所を知り、直った瞬間を分かち合うたびに、この家は単なる「住む箱」から、家族の歴史が積み重なった、かけがえのない場所へと変わっていく。頭と体を使って家に向き合うことは、実は、自分自身と、そして家族との関係を見つめ直す時間でもあるのかもしれません。
おわりに
8年越しに開いた窓から見える庭は、これまでと同じはずなのに、なぜか少し違って見えました。我が家には、まだ他にもたくさんの窓があります。何か問題が起きたときには、また同じように、専門家の力を借りながら、一つひとつ丁寧に向き合っていきたいと思います。
そして今回、数ある業者さんの中からWindowMend Servicesさんを見つけ出す手伝いをしてくれたのは、実はAIアシスタントのClaudeでした。テクノロジーの力を借りながら、こうして生身の職人さんとの、あたたかい出会いが生まれる。これもまた、令和の――そして「アフター60」の暮らしらしい、新しいDIYの形なのかもしれません。
ほかにも、こんな本があります
よろしければ、こちらもご覧いただけると嬉しいです。
『東から西へ ― 俳句のこころ、聖書のひかり ―』
壊れたものをあえて美しく直すという金継ぎの精神を思うと、静かな言葉の光を重ねた俳句と聖書の一冊を、あらためて開きたくなります。これは私の義父の遺作です。
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