ノーマン・カズンズ『続・笑いと治癒力 生への意欲』をきっかけに、66歳の私が実際にやってみている実践を体験談としてまとめました。以前このブログで前作『笑いと治癒力』について書きましたが、今回はその続編にあたるこの本を読みました。前作が悪性の膠原病からの回復記だったのに対し、今作は著者が63歳のときに心臓発作で倒れ、そこから再び日常を取り戻していく記録です。テーマも少し違って、統計との付き合い方や、医師とのコミュニケーション、そして「63歳からの新しい人生」について多くのページが割かれていました。66歳の私にとって、まさに今の自分に語りかけてくる本でした。

数字に振り回されないという実践

著者は心臓発作の直後、「発作を起こした患者の五十パーセントは最初の二十四時間で亡くなる」という統計を知ってしまい、その数字が頭から離れなくなります。しかし彼は、統計はあくまで集団についての確率であって、自分という一人の人間の未来を決めるものではない、と考え直していきます。

これは私にも覚えがあります。人間ドックの結果に「同年代の何パーセントがこの数値だと将来こうなる」といった注釈がつくと、つい自分がそのグラフの中の一点になったような気分になってしまいます。今は、そういう数字を見たときに「これは集団の傾向であって、私の運命ではない」と一度言葉にしてから受け止めるようにしています。数字を無視するのではなく、数字に飲み込まれないための小さな儀式のようなものです。

検査や通院に「気分」を持ち込む実践

印象に残ったのは、著者が心臓のトレッドミル検査を受けるときのエピソードです。最初はバッハのオルガン曲を聴きながら検査を受けていたのですが、あるとき看護婦にウディ・アレンのコメディテープに変えてもらったところ、検査室の空気が一変し、担当医の表情まで和らいだという場面がありました。

これを読んでから、私も通院や検査の日には、行き帰りに聴く音楽やポッドキャストを意識して選ぶようになりました。緊張しがちな待合室の時間こそ、あえて軽い話題のものを選ぶ。血液検査の結果を待つ数分間も、深刻な顔で座っているより、スマホで少し笑える動画を見ている方が、その後の医師との会話も落ち着いてできる気がしています。

医師との対話を「質問リスト」から一歩進める実践

前回の記事でも、医師と対等に対話することの大切さに触れましたが、今回の本では、医師を「情報の一方的な受け取り先」ではなく「情報伝達者」として捉える視点が印象的でした。著者は担当医に、検査結果の意味だけでなく、「なぜその検査が必要なのか」「その情報を得て何が変わるのか」まで聞くようにしていました。

これを取り入れて、私も最近は質問リストに「この検査(治療)の結果によって、次の方針はどう変わりますか」という一文を必ず加えるようにしています。単に数値を教えてもらうより、その数値が今後の判断にどうつながるのかを聞く方が、自分ごととして受け止めやすいと感じています。

診察のクリップボードで、ぎざぎざの心電図の線が少しずつ穏やかな笑顔の曲線に変わっていく様子と、その上に浮かぶ音符の線画

検査や通院の場面に、あえて音楽やユーモアという「気分」を持ち込む実践のイメージです。

「六十三歳からの人生」に励まされる実践

本の中で最も心に残ったのは、著者が63歳で心臓発作から回復した後、UCLA医学部の教官という新しい仕事を引き受ける章でした。それまでの雑誌編集者としてのキャリアを離れ、医学生に文学や哲学を教えるという、まったく畑違いの挑戦です。年齢を理由に新しいことを諦めなかった姿勢に、静かに背中を押されました。

66歳の私にとって、大きな転職や新しい肩書きを持つことは現実的ではありませんが、「今までとは違う小さな挑戦」を一つ持つことならできると思っています。最近は、これまで自分のためだけに書いてきたブログの記事を、もう少し丁寧に調べものをしてから書くようにしています。ちょっとした違いですが、これも私にとっての「新しい教官の仕事」のようなものだと思っています。

パニックこそ最大の敵、という実践

本の後半で著者は、病気そのものよりも「パニック」が回復を妨げる最大の敵だと書いています。慌てて悪い方に考えを進めてしまうと、体もそれに反応してしまう、という指摘です。

私自身、検査の結果を待つ間や、体の違和感に気づいたときに、つい最悪のシナリオを先回りして考えてしまう癖があります。今は、そういう瞬間に気づいたら、まず深呼吸を一つして、「まだ何も確定していない」と自分に言い聞かせるようにしています。温室でトマトの様子を見に行く、メグを撫でる、といった前回書いた習慣も、実はこのパニックを鎮めるための時間としても機能しているのだと、今回あらためて気づかされました。

小さな温室のそばで広がる深呼吸の輪と、寄り添う猫のメグを描いた線画

パニックを鎮める深呼吸と、温室の見回りや猫のメグと過ごす時間のイメージです。

治癒力は、新しい一歩を踏み出す力でもある

前作を読んだときは「治癒力は年齢に関係なく失われない」というメッセージを受け取りましたが、今回はもう一歩進んで、「治癒力は、新しいことを始める力でもある」と感じています。数字に飲み込まれず、気分を大切にし、医師と対等に話し、小さな挑戦を持ち、パニックを鎮める。どれも特別なことではありませんが、66歳の今、あらためて意識してみたい習慣です。

今回ご紹介した本はこちらです。

ノーマン・カズンズ『続・笑いと治癒力 生への意欲』(岩波現代文庫)

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ほかにも、こんな本があります

よろしければ、こちらもご覧いただけると嬉しいです。

『東から西へ ― 俳句のこころ、聖書のひかり ―』(村井弘 著)

俳句のことばと聖書の光を行き来しながら、東と西の精神性を静かに見つめたエッセイです。日本の詩情と聖書の世界が、思いがけないところで響き合う一冊です。これは私の義父の遺作です。

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『白内障手術体験記 ― 英国在住者が大阪で自費手術を受ける』(南晴人 著)

大阪での両眼の白内障手術を、英国と日本の二拠点生活を送る66歳の視点から、率直に綴った体験記です。レンズ選びから費用、術後の見え方まで、実際に経験したことをそのまま記録しました。

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『英国寿司ビジネス奮闘記(小説版)』全4巻(南晴人 著)

29歳でロンドンへ渡り、寿司ひとすじに35年。見習いから工場長、そして寿司教室までを描いた小説シリーズです。

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